多くのブルトン人が異口同音にその美しさを讃えるディナン
ディナン(Dinan)の旧市街が近づくと城壁が見えてきます。13世紀から16世紀の間に建てられた高くそびえるこの城壁は、これから訪れる街への期待感を高めてくれます。フランスで中世に栄えた多くの街は、このディナンのように外敵から身を守るために街の周囲に城壁を張り巡らせていました。
実は、その大多数はパリなどのように街の近代化や都市整備に伴い城壁を壊すことを選択したため、ディナンやブローニュ=シュル=メールのように中世に建てられた城壁がほぼ完全な形で残っているところはフランスでは数えるほど。そういった意味で、城壁は近代化から街を守る真空パックみたいなものと言えるかもしれません。なので、街を外から見て、いい状態で城壁が保存されていれば、昔の趣のある街並みがあるんだろうなと想像してしまうのです。

ディナンの旧市街の美しさはそんな勝手な期待さえも裏切ることはありません。下流にサン・マロ(Saint-Malo)とディナール(Dinard)が位置するランス川(la Rance)の河口の奥にある港のおかげで、14世紀から発展した城壁内の旧市街にはかつての商人や職人たちが暮らした街並みが当時のまま残っています。

ディナン旧市街を散策
ディナンの旧市街の中で、もっとも絵になるのがジェルジュアル通り(Rue du Jerzual)です。この通りは、かつて街と港を繋ぐ唯一の道でした。この急な坂を商人が往来し、やがて成功とともにブルジョワになり、自らの家を建てたのです。現在でも15世紀に建てられた木骨造りの家が残り、当時の面影を残しています。かつての成功者たちの住まいには芸術家や職人が住むようになり、界隈を賑わしています。

ディナン旧市街には少なくとも115の木骨造りの家があると言われています。一口に木骨造りといっても地方によって外観は様々なのですが、レンヌなどのブルターニュの他の街でもあまり見られないディナンならではとも言えるのがメゾン・ア・ポルシュ(maison à porche)と呼ばれる玄関ポーチ(庇がある玄関)のある建物です。この類の建物は市場が開かれる広場や人通りの多い通りに沿って建てられ、職人や商人たちが軒下に商品を並べていました。屋内市場がない時代にあって、雨に濡れずに商売ができるというのは当時では画期的だったのです。
しかし、時代の流れによりこれらの建物は消えていきます。木骨造りの家は燃えやすいということもあり、18世紀には3度の度重なる火事の後に建築自体が禁止されます。さらに19世紀には道が狭くなるため街を近代化する上での妨げになることから多くが破壊されました。しかし、20世紀になってようやくその歴史的価値に加え観光資材として評価されるようになって保護や修復が進み、そのおかげでその一部が今でも保存されています。

ディナンにはブルターニュでは最多の14のメゾン・ア・ポルシュがあるそうですが、それらのいくつかはメルシエ広場(Place des Merciers)で見ることができます。ちなみに、この広場にはお土産店が多くあり、ブルターニュ名物とも言える缶詰の専門店ラ・ベル・イロワーズもあります。