カンペールの「チョコレートの革命家」、ジョルジュ・ラルニコル

1993年にはフランス国家最優秀職人賞を受賞したラルニコルとは?

店先に並ぶチョコレートの彫刻の数々。繊細な手仕事で生み出されたその芸術品の数々が並ぶ店先はまるでセレクトショップか何かのようです。とはいえ、店内に所狭しと並べられたチョコレートやビスケットなどの香りは視覚だけでなく嗅覚にも強く訴えます。「今日はウインドウショッピングで済まそう」なんて考えは捨てた方がいいかもしれません。一度中に入ってしまうとすぐに常連になること間違いなしだからです。

店の名前はジョルジュ・ラルニコル(Georges Larnicol)。フランス文化の伝統の継承するのにふさわしい技術を持つ職人に与えられるフランス国家最優秀職人賞(Meilleur Ouvrier de France)の1993年の受賞者の一人です。パティシエを父に持ちながらも店を継ぐことを拒み、学生時代は美術や建築を学び、その後は生計を立てるためフレンチポテトの屋台を引くなど紆余曲折の末に、30歳にして父と同じ道を歩むことを志ざします。そしてフランス西部のブルターニュ地方のカンペール(Quimper)でパティシエとしての彼の挑戦が幕を開けるのです。

ラルニコルの成功の哲学とは?

ラルニコルのチョコレートは彼の職人としてのノウハウと材料へのこだわりから生み出される高い質が特徴です。しかし、この質の高い製品は高級品として裕福な人にしか手の届かないものではなく、皆に共有されなければ意味がないと彼は考えています。できるだけ多くの人に届くように、量り売りにしているのもそのためです。実際に店に入ると、セルフサービスで好きなチョコレートなどの商品を好きなだけ選んで購入することが可能です。

また、彼のルーツであるブルターニュ地方への愛着は商品のラインアップにも表れています。例えば、日本でも近年見かけるようになったブルターニュ地方の名物のクイニーアマン(Kouign-amann)はその一つです。ブルトン語(ケルトに起源を持つブルターニュ地方独自の言語)で「バターのお菓子」という意味を持つように、バターがふんだんに使われているので好き嫌いが分かれることが多いのですが、彼はクイニーアマンをより食べやすくしたクイネット(kouignette)を生み出して今では主力商品の一つです(下記写真)。

クイネットはクイニーアマンよりずっと小さく、チョコレート、ピスタチオ、フランボワーズ、塩バターなど10種類を超えるほど種類が豊富です。伝統を守りつつも、アレンジを加えて現代のニーズに合わせた商品を提供していることも彼の成功の秘密かもしれません。

ラルニコルの製品の製造拠点は今もカンペールの近くにあり、彼の店の多くは今もブルターニュ地方にあります。愛する地元に起点を置きつつも、彼の「誰の手にも届くようなチョコレート」を作る情熱は今ではパリや海外にまでも届き始めています。ブルターニュ地方で彼の店を見つけたら、そんなチョコレート職人に想いを馳せながらチョコレートとクイネットをぜひ食べてみてください。