ロワール渓谷の小さな街シノンが世界遺産である理由とは?

中世の面影を残す芸術と歴史の街、シノン

ロワール渓谷の古城と聞いて皆さんがまず思い出すのはシュノンソー城(château de Chenonceau)やシャンボール城(château de Chambord)のようなルネッサンス期を象徴するような優雅な佇まいをした城の数々でしょう。しかし、この地域が「シュリー=シュル=ロワールとシャロンヌ間のロワール渓谷」としてユネスコ世界遺産に登録された理由はそれだけではありません。ロワール川の流域の素晴らしい景色はもちろん、トゥール(Tours)やブロワ(Blois)などのような歴史のある街の数々があるからです。これから紹介するシノン(Chinon)もその中の一つです。

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ヴィエンヌ川から見たシノン城

ジャンヌ・ダルクが駆け抜けた街

SNCFのシノン駅からまっすぐ伸びる道に沿って歩いて行くと、騎馬像が視界に入って来ます。ここはジャンヌ・ダルク広場。その名の通り、フランス国民のヒロインの銅像が建てられている場所です。実はシノンはジャンヌ・ダルクが1429年にフランス国王シャルル7世に面会した場所なのです。この出会いによりフランスの運命は大きく動き出すことになります。

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ジャンヌ・ダルク像

当時イングランドとの百年戦争真っ只中だったフランスは劣勢を強いられていました。13歳の時にフランスからイングランド軍を追い出すようにとの神のお告げを聞いたジャンヌ・ダルクはシャルル7世に会いにシノンに向かいます。ようやく面会を果たすと少女は王にイギリスに包囲されていたオルレアン(Orléans)を救うために小さな軍隊を与えるように求めます。若い兵士たちを率いた彼女は軍人として優れていたのかは今も議論が分かれるところですが、そのエネルギーとカリスマ、そして何より神に選ばれた者としての信念が状況を一変させ、オルレアンを解放することに成功させました。その後彼女はフランスの勝利に大きく貢献しますが、コンピエーニュ(Compiègne)包囲戦で捕虜となり、異端審問の末にノルマンディー地方のルーアン(Rouen)で1431年に処刑されてしまいました。

このように悲運な形で命を落としたものの、祖国のために戦う姿は愛国心の象徴としてフランス人の心に刻まれており、今でもフランスの至る所で彼女の足跡を辿ることができます。シノンはその中でもジャンヌ・ダルクとフランスにとっての大きな一歩を踏み出した場所だったのです。

王家の要塞、シノン城へ

ジャンヌ・ダルク広場を離れシノンの旧市街に。そこにはプランタジネット朝のイングランド王ヘンリー2世の支配下にあった12世紀半ばから15世紀の間のかつての街の姿が見て取れます。当時の道幅を保っている石畳の道沿いには木骨造りの家やかつての地元の有力者の家などが軒を連ねています。後世に建てられた建物の外観もそれらに寄り添うように調和していて、どこを切り取っても写真映えする街並みが続いていきます。

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シノン旧市街の街並み

街歩きを楽しんだ後は丘の上にあるシノン城へ。ここはジャンヌ・ダルクが当時シャルル7世が滞在していた場所でもあります。フランスの城というとヴェルサイユ宮殿のような華やかなイメージを抱きがちですが、中世のフランスは国としての輪郭がはっきりとせず、イングランドとの百年戦争などもあり政情が不安定で、そのためにどちらかというと当時の城といえば要塞的要素が強いのが一般的でした。そのため、シノン城も例外ではなく、深い空堀を隔ててそびえ立つ城壁には城の守りを固めるためにいくつかの塔が配置されています。矢狭間や石落としなど日本の戦国時代以降の城に共通する防衛システムがあり、どこの国でも同じことを考えるんだなと思うと大変興味深いですね。

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シノン城の入り口、時計の塔(Tour de l’horloge)

ポワトゥー、アンジューそしてトゥレーヌの3つの州の交わるシノンは戦略的に重要な場所と考えられ古代より常に時の支配者に渇望されてきました。10世紀になるとブロワ伯チボー1世(Thibaud 1er)によって最初の塔が建てられ、1154年にからはイングランド王かつアンジュー伯のヘンリー2世により現在のシノン城の原型が作られました。しかし13世紀初頭にはフランス王フィリップ2世の手に落ちるとその後はフランス領となります。フィリップ2世が城の敷地の中に建築を命じたクドレーの主塔(donjon du Coudray)は後にジャンヌ・ダルクが城を訪れた際の宿となりました。このように城内を歩くとそれぞれの建物に違う時代の息吹を感じられます。

シノン城からはシノンの街並みとロワール川の支流であるヴィエンヌ川の素晴らしい景色を眺めることができます。この景色をジャンヌ・ダルクをはじめとする歴史的人物が眺めたんだろうなと想像すると、今後はフランスの歴史がさらに身近に感じられるようになりますね。

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シノン城からのシノン旧市街とヴィエンヌ川の眺め
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