カマンベールチーズの保護生産地呼称が実質規制緩和へ
18世紀にノルマンディー地方の小さな村カマンベール(Camembert)で生まれたカマンベールチーズ。その名声は今では世界中に広がり、今や日本でもその名前は多くの人に知られています(詳しくは下記の記事をどうぞ)。しかしながら、その知名度がゆえに、ノルマンディー地方のカマンベールチーズ製造業者の間で保護生産地呼称ことAOPの権利を巡って争いが行われていることはあまり知られていません。
AOP(保護生産地呼称)とは、EU圏内の一定の製法や原料に基づいて作られた食品などに与えられるもので、その条件を満たしている製品には下記のようなラベルが貼られます。こうすることで、伝統を守る生産者や伝統によって培われたその名前を守るだけでなく、そのブランド力を利用して製法を守らず大量生産することで利益を得ようとする同業者たちとの差別化を計ることができるのです。

「カマンベールチーズ」はAOPではない?
消費者にとって、スーパーや小売店に並ぶカマンベールチーズはどれも一緒に見えるかもしれませんが、生産者にとっては大きな違いがあります。AOPのカマンベールチーズは「Camembert de Normandie(ノルマンディーのカマンベール)」と書かれています。これはカマンベールチーズ自体がAOPに登録されていないためで、「ノルマンディーの」とつけることで差別化を図ろうとした結果です。
伝統的なカマンベールチーズは低温殺菌していない生乳のみが使われ、手で柄杓を使って乳を型に流し込んで作られます。こうすることで生まれる風味は大量生産で作られたものとは一線を画し、AOPのおかげでその製法と存在が保たれているとも言えます。実際にスーパーのチーズ売り場に行くとカマンベールチーズだけで何種類もあり、AOPがなければ消費者が伝統製法で作られたものを選ぶのは至難の技だからです。
そんなカマンベールチーズの市場において、95パーセントのシェアを持つ大手の乳製品会社は「Camembert fabriqué en Normandie(ノルマンディー産のカマンベール)」という形で「ノルマンディーのカマンベール」を追随しました。消費者を混乱させるこの名称をAOPのあるカマンベールチーズの製造者たちは許すはずもなく、「ノルマンディー産の」の部分を外すように抗議をする形で始まったのが、このカマンベールチーズをめぐる争いのきっかけでした。