旧市街とディナン港を繋ぐ街のかつての大動脈
こんにちは。フランス政府公認ガイドの濵口謙司(@tourismjaponais)です。
フランス北西部ブルターニュ地方の街ディナン(Dinan)は「中世の街」と呼ばれています。115を数える木骨造りの街並みはレンヌやヴァンヌ、ヴィトレなどに次いでブルターニュでも屈指の規模です。現在は人口1万人前後の小さな街ですが、かつてはレンヌやナントに次ぐ大きさのブルターニュ地方でも有数の商業の街として栄えていました。

城壁に囲まれた街の旧市街から75メートル下にはランス川(la Rance)が流れており、ほとりにはディナン港があります。このランス川とディナン港は街の発展の歴史を語る上で欠かせないもので、この2つと街を繋いだ道が重要な役割を果たしていました。
今回はディナンで最も美しい道としても知られる木骨造りの建物が立ち並ぶこの道をご案内します。
目次
- ディナンの発展を支えたランス川とディナン港
- かつてディナンの街を2つに隔てた境界線
- 特徴ある木骨造りの家並みを抜けてディナン港へ
1. ディナンの発展を支えたランス川とディナン港
全長102kmのランス川はディナンを通り、北に位置するサン・マロやディナールの間を通り、イギリス海峡に注ぎます。サン・マロのあたりはモン・サン・ミッシェル湾と並んでヨーロッパでも屈指の潮の満ち引きの規模でも知られており、ランス川の河口には潮力発電所が設けられています。
この河口付近にサン・マロの対岸にあるサン・セルヴァン(Saint-Servain)という小さな街があります。ここはかつてアレット(Alet)と呼ばれ、この辺り一帯を支配していたケルト民族の首都でもありました。移動や物資の運搬などに便利だったランス川は戦略的にも重要で、そのため上流にある現在のディナンに11世紀の前半に城を築いたのがディナンの歴史の始まりでした。

ディナンの始祖と言われるジョスラン(Josselin)は街を経済的にも発展させることを考え、ランス川には橋が架けさせました。現在ではヴィユー・ポン(Vieux pont)と呼ばれるこの橋のおかげで人と商材の往来を活発に。さらに彼の子孫は地元の商人の税を軽減させるなどの優遇措置を取ったため、中世のディナンは商業の街として発展していきました。
ランス川流域のディナン周辺にはぶどう畑が広がっていて、また小麦などの農作物が豊富でした。こうした自然の恵みに支えられた街の発展の基盤はやがて織物などの手工業へと推移して行き、中世の終わりには商業の街としてだけでなく、職人の集まる街となっていました。
今でもその当時の面影が残っているのが、ジェルジュアル通り(Rue du Jerzual)からジェルジュアル門(Porte du Jerzual)を抜けて、プチ・フォール通り(Rue du Petit-Fort)、そしてディナン港(Port de Dinan)に続いていく道です。
2. かつてディナンの街を2つに隔てた境界線

1123年にディナンは南北に分けられ、別々の領主によって支配されるようになります。ディナンの三代目の領主が死去した際に二人の息子に領地を分け与えました。その境界線の一部が前述のジェルジュアル通りとプチ・フォール通りに当たります。
現在でも城壁がぐるりと街全体を取り囲んでいるので、街が2つに分割されていたというのは不思議な感じがします。ちなみに、城壁が作られ始めたのは13世紀の末のことです。
このかつての街の境界線に沿って多くの木骨造りの建物が並んでいます。現存で一番古いものは15世紀のもので、街の発展とともにこの通り沿いに商人や職人の家が建てられました。これらは現在では商店やアーティストのアトリエとして利用されています。
ディナンの旧市街は丘の上にあるので、港まで続くこの道の勾配はかなり急で登るだけでも息が切れそうです。ここを物資を積んで登っていたと想像するだけで当時の苦労が伺えます。
中世以降、この道がディナンの商業の発展を担ってきたのですが、18世紀になると増える交通量に対応できなくなりました。そのため、1782年に新たな道が整備され、現在では街の新たな幹線の役割を果たしています。
3. 特徴ある木骨造りの家並みを抜けてディナン港へ

プチ・フォール通りには旧市街には街の歴史を今に語り継ぐ建物の数々が並んでいます。中でも15世紀に建てられた「総督の家(Maison du gouverneur)」と呼ばれる建物がその一つで、ディナンで一番古い木骨造りの建物の一つでもあります。
2つの棟が垂直に並んでいるこの大きな建物はいくつかの部屋があり、かつてはアパートとして貸し出されていたようです。現在ではアーティストの展示スペースとして使われています。
坂をさらに下ると上階部分に透かし窓が付けられた木骨造りの家が見えてきます。ここは19世紀後半にディナンで栄えたなめし革の加工を行なっていた工房です。
原材料である動物の皮を洗うのに川に近いという立地もあり、この辺りにはこうした建物がいくつか見られます。透かし窓が取り付けられているのは、日光と風を遮り皮を乾燥させるためです。

プチ・フォール通りを抜けるとディナン港とランス川の美しい景色が広がっています。かつては河口にあるサン・マロ、そしてそこから国外に物資を運ぶ要所として栄えたディナン港は、今ではマリーナとして整備され、遊覧船や個人の船が停泊しています。川に沿ってレストランや商店が並んでいて、観光客だけでなくサイクリングをする人、カヌーを楽しむ人などが行き交い、旧市街とは違った港の雰囲気が楽しめます。

ジェルジュアル通りからディナン港への道はディナンの歴史を語る上でも欠かせない場所であると同時に、街で最も美しい場所の一つです。絵画のような景色に思わず声をあげてしまう人もいるほどです。旧市街で中世の街並みを堪能した後はぜひディナン港に足を運んでみてください。