フランスにはなぜアール・デコやアール・ヌーヴォー様式の美しいプール建築があるのか?

知られざるフランスの水泳とプールの歴史とは?

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レンヌのピシーヌ・サン・ジョルジュ(Piscine Saint-Georges)

上の写真はブルターニュ地方のレンヌ(Rennes)にある建物で1925年に建てられたもので、実はこの建物は現役で使われているプールなのです。誤解のないように言うと、改築してプールにしたのではなく、もともとプールとして作られたものでフランスに作られた初期のプールの一つでもあります。20世紀初頭のフランスにはこのようなアール・デコやアール・ヌーヴォー様式のプール建築が多く生まれました。このような美しい建築美のプールが生まれた背景にはフランスの水泳とプールの歴史が密接に関わっています。

「泳ぐ」という概念の発生したのはいつ?

人類が昔から「泳ぐ」という行為をしていたということは紀元前4500年のエジプトの洞窟壁画によって証明されています。古代ギリシャや古代ローマでは海戦がよく行われていたこともあり、軍事的な観点から水泳が行われていていました。中世に入ると、日本でも武術としての水術が行われていたように、西洋では身分の高い貴族によって行われ、騎士は泳げなければなりませんでした。

19世紀に入ると水泳は現代的なスポーツとしての側面を帯びていきます。イギリスでは19世紀に水泳クラブが作られるようになり、大英帝国を形成していたオーストラリアに広がりました。西洋の各国に水泳連盟ができ、1896年にアテネで行われた第一回の近代オリンピックの種目として水泳が採用されました。フランスでは18世紀末にパリで最初の水泳学校がセーヌ川にかかるトゥルネル橋(Pont de la Tournelle)の近くに作られました。とはいえ、貴族のものであった水泳が大衆化するには水に浸かる習慣と施設がなかったのです。

海水浴場の発達が生み出した現代的なプール施設

古代ローマの浴場には冷水の浴場がありました。また、中世のヨーロッパにはキリスト教の教会の外に洗礼のための水を張ったプールのような施設を備えた建物が作られました。しかし、現代的な泳ぐためのプールという施設が生まれるのは20世紀の初頭まで待たねばなりませんでした。

施設としてのプールが誕生した背景には海水浴場の発達がありました(詳しくはこちらの記事をどうぞ:イギリス人が始めたフランスの海水浴場の歴史)。フランスでは19世紀前半に保養を目的として始まった冷水に浸かる海水浴の習慣は、徐々に貴族から庶民に少しずつ広がりを見せていきました。19世紀後半から第一次世界大戦にかけて、大都市への人口流入や工業化の弊害などを受けて衛生状態が悪化したことから、水に浸かり泳ぐという行為が健康の向上に繋がると考えられたためです。

この海水浴の大衆化と呼応するように近くに海のない地域にもプール施設がフランスにも誕生します。イギリスではすでに19世紀前半にはすでにプール施設が作られ始めましたが、フランスで最初のプールが建てられたのは20世紀の初頭でした。パリやフランス北東部のナンシー(Nancy)にアール・ヌーボー建築のプール施設が建てられました。そして、これらをモデルに1920年代に当時世界的な広がりを見せていた建築様式であったアール・デコ様式を採用した約20のプールがフランス各地で作られていきました。上記のレンヌのプールもその一つです。

このように、一見するとプールに思えないような建物が生まれた背景には、水に浸かって泳ぐという習慣の定着が新しい建築物のジャンルを生み出し、その当時の流行の建築がそれに反映された結果なのです。パリ、ナンシー、レンヌなどには当時建てられたもので未だに現役のものも多くあります。観光のついでに美しい建物を眺めて泳いでみるのはいかがでしょうか?

フランスにあるアール・ヌーヴォーあるいはアール・デコ様式のプールのリスト(フランス語)

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