歴史的建築物を宿泊施設として使うということの意義
先日、重要文化財に指定されている奈良少年刑務所が閉鎖されて民間の手によって「監獄ホテル」として新たに生まれ変わるというニュースが話題になりました。ロンドンやボストンなど海外でも数例あり成功を収めているようです。老朽化によって建物の状態を維持をするのが難しくなり、企業が修復費用を負担する代わりに商業利用するというケースは今後ますます増えていくことと思います。賛否はありますが、行政が維持できなくなり修復されず放置されると建物の状態は悪化の一途を辿るのみです。その観点からすると、こういった利用方法は行政側にも企業側にも双方にとって有益なものだと言えます。
一方で利用者にとってもメリットはあります。旅行という非日常体験において、旅行者はホテルとは違う新たな形の宿泊形態を求めるのはごく自然なことです。京都でも古い町屋が宿泊施設として使われていて外国人観光客に人気を博しているのも頷けます。
日本と同様にヨーロッパでは積極的にこういった取り組みがなされています。スペインではアルハンブラ宮殿内のホテル、フランスだと近世以降に建てられた城や邸宅を改装してホテルにしたシャトーホテルは日本でもよく知られています。こうした歴史のある建造物を改築して使う例はシャトーホテルのような優雅な外観を持つ建物だけに限りません。今回はフランスにある歴史的建造物を使った2つ星から4つ星ホテルまでそれぞれ宿泊施設を1つずつご紹介したいと思います。
アラスで一番古い歴史建造物を改装した2つ星ホテル

フランス北部のオー・ド・フランス地域圏にあるアラスの中心部にはグラン・プラス(Grand Place)という広場があります。フランス語で文字通り「大きな広場」という意味のこの広場にはバロック・フラマンド様式の建物が整然と並んでいます。その中で一つだけ違う建築様式の外観を持つのが、1467年に建てられた煉瓦造りの建物です(上の写真の左から2つ目)。ベルギーのブルージュなどでよく見られる屋根の妻側(三角の部分)が階段状になっているのが特徴で、アラスで現存するもので一番古い建物でもあります。
グラン・プラスで唯一のゴシック様式のこの建物はオテル・レ・トゥワ・リュパール(Hôtel les Trois Luppars)という2つ星のホテルとして現在使われています。実際に著者もここに泊まったことがあり、その際にホテルの受付の方と少しお話をする機会がありました。彼女によると「この建物は重要文化財(monument historique)に指定されているために、改装をするためにも色々と行政の許可が必要で大変だ」そうです。余談ですが、フランスの重要文化財の保護に関する法律はその建物と周辺の半径500メートルまで適用されます。つまり重要文化財の近くに住む人たちも自分の家の思うように改築することができないのです。これはフランスには古い街並みが多い一つの要因でもあります。