第二次世界大戦をテーマにしたカン平和記念博物館で見た日本の過去と世界の今

ノルマンディー地方のカンの世界大戦の記憶を辿って

ノルマンディー地方のカン(Caen)は第二次世界大戦のヨーロッパでの戦局を変えたノルマンディー上陸作戦(詳しくは下記参照)の舞台となった都市。街の中心部から出るバスに乗って郊外に出ると、広大な敷地にカンを観光する上で外せないカン平和記念博物館(Mémorial de Caen)があります。フランス人のみならず、イギリスやアメリカなど世界各国から多くの観光客が、戦争の記憶を辿るためにカーンのこの博物館にやってきます。

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カン平和記念博物館

ノルマンディー上陸作戦:当時ドイツ軍の占領下にあったフランスをイギリスとアメリカを中心とする連合軍が対ソ連のために東側に戦力を固めていた裏をつき、1944年6月6日にドーバー海峡を渡りフランス北西部から落下傘部隊などでドイツ軍を急襲し、その後同年8月のパリ解放につながって行く第二次世界大戦の分岐点ともなった戦い。

大戦だけでなく20世紀のフランスと世界の情勢を知ることができる博物館

博物館を外から見るとあまり大きく見えないのですが、地下にも多くの展示スペースがあり、中に入るとその膨大な情報量に驚かされます。目安として、一通り回るのに3時間はかかると言われていますが、全ての展示にしっかり目を通すと丸一日はかかるのではないでしょうか。展示の言語は、英語とフランス語、ドイツ語。日本語はないのですが、言葉が分からなくとも、展示方法が視覚に訴えるように工夫されており、非常に良くできています。

この博物館の展示で優れているところの一つは、第二次世界大戦だけでなく20世紀初頭の第一次世界大戦がどうして起きたかというところから始まり、冷戦後のベルリンの壁崩壊にいたるまでの世界情勢にもしっかりスペースを割いて展示しているところ。もちろん、ノルマンディー上陸作戦のコーナーもあり、模型などを使って、詳細に経緯を説明してあります。

フランスの視点で日本の過去を知る

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著者が日本で通訳案内士として仕事をしていた時、よくフランス人を連れて広島平和記念資料館に行く機会がありました。必然的に彼らと太平洋戦争や第二次世界大戦について話す機会があり、その中で話題となったのが、南京大虐殺やユダヤ人の強制収容所でした。

カン平和記念博物館では、大量虐殺というテーマの中でユダヤ人の虐殺と一緒に南京大虐殺についての説明も行われています。実際に、この博物館では日本がどうして戦争に向かったのかなどを展示物と一緒に紹介していました。戦時中の日本についてフランスでこれだけのコーナーが割かれていたのは個人的には驚きでした。原爆投下についても映像があり、日本人の証言のビデオと一緒にまとめてありました。

また、ドイツから多くの資料が提供されており、強制収用所にいたユダヤ人のビデオによる証言などもありました。彼らの壮絶な収容所での生活は、内容的に聞くのが辛くなるくらいで、視聴コーナーには年齢制限が設けられているくらいでした。実際にどのように彼らが生活をしていたのかを目の当たりにすると、忘れてはいけない人類の記憶をこれからどういう風に次の世代に伝えて行くかというのを大いに考えさせられます。

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南京大虐殺についての記述

過去を知ると今が見える

2016年のアメリカ大統領選後、ヨーロッパでは移民の問題やテロの脅威に乗じてポピュリズムが浸透し始め、極右勢力が台頭しています。日本ではアパホテルに置かれていた南京大虐殺を否定した本が話題になりました。フランスでも一大勢力になりつつある極右勢力の国民戦線(Front National)はユダヤ人虐殺は第二次世界大戦のわずかな詳細に過ぎないと主張しており、彼らの支持者の中には存在そのものを否定する者すら存在しています。その姿勢がフランスでも大統領選が近づく中でテレビでよく話題になっています。

そういった現代の世界情勢を踏まえてカン平和記念博物館を訪れると、「歴史は繰り返す」のだなとふと思いました。博物館の最後の部分で戦後の冷戦についての説明を読んで展示されているベルリンの壁(下の写真)を見た瞬間、もちろん背景は違うのですがアメリカとメキシコでできつつある壁を思い出さずには入られませんでした。

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ベルリンの壁の展示

時代が変われば支配する思想も変わります。年齢によって物の見方が変わると同じ内容のはずの本を読んでも印象が変わることがあるという体験をすることはよくあります。広島平和記念資料館と同様にこのカン平和記念博物館はそんな本のように定期的に訪れて、今の世界を見つめ直すきっかけになる場所なのではないかと思います。