サン・マロの「バターの演出家」ボルディエのこだわりとは?

フランスや日本の一流シェフが重宝するボルディエのバター

こんにちは。フランス政府公認ガイドの濵口謙司(@tourismjaponais)です。

ブルターニュ北部の城塞に囲まれた港町サン・マロ(Saint-Malo)のロルム通りにあるバターの家(La Maison du Beurre)。その名の通り、パネルや製造に使われる伝統的な道具を通じて、バターの歴史を知ることができる小さな博物館です。

フランスの各地のみならずヨーロッパや日本などの世界各国にその名を轟かすバター職人のジャン=イヴ・ボルディエ(Jean-Yves Bordier)のバターへの情熱を感じ取れる場所でもあります。

パリで生まれたジャン=イヴさんは祖父はバター職人、父はチーズ職人という乳製品に携わる家生まれ。パリ近郊などで修行を積んだ後、1985年にこのサン・マロの乳製品販売店を買い取って自らの店を出しました。これが現在のバターの家となっています。

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サン・マロのバターの家(La Maison du Beurre)

フランスで伝統的手法を守り抜くボルディエ

サン・マロから数十キロのところにある彼のアトリエを覗くと、世界中のシェフを虜にするバターの秘密が垣間見れます。例えば、木の板を敷き詰めた特注の機械を使っての19世紀に発明されたバターをこねる手法を使っているのはおそらくフランスでもここだけです。

また、フルール・ド・セル(fleurs de sel)として知られるブルターニュ地方などで取れる大粒の天日塩と違い、サン・マロの塩は非常に細かいため、違った手法を使わざるを得なかったこともボルディエのバターを唯一無二にした理由の一つです。

60ミクロンの極小の塩を加えることで、バター生地の脂質が塩を取り込むと同時に水分を外に出します。ボルディエ曰く、この「バターが泣く」ことが重要で、それが他のバターにはない風味と香りを生み出すのです。

下の動画は製造過程の一部ですが、注目して欲しいのは型取りから包装までの大部分を手作業で行っていることです。ヘラを使ってリズミカルに形を作り、最後に納品先に応じた刻印をします。シェフやレストランによって湿度や形や塩分の割合などが違うので、要望に応じたバターを作ることが求められます。

革新的な「バターの演出家」のボルディエ

このようにして手作業で作ったバターが年間300万個も世界中に届けられている理由は、伝統的手法だけでなく、ボルディエ自身が味を演出した新たな作品の数々によるものでもあります。

その中でも、彼が他に先駆けて生み出した海藻バターは今でも代表的な商品の一つ。フランスの一流シェフやパティシエの間でも注目されている食材ゆずを使ったバターも今では定番となっています。日本人にはなかなか想像しにくい味ですが、実際に食してみると、ゆずの風味がバターの中に消えることなく食後に余韻としてしっかり残ります。

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ゆず風味のバター

日本では一個(125グラム)で1500円ぐらいはする高級食材のボルディエのバターですが、ブルターニュ地方で買えば300円くらいで買えます(余談ですが、ちなみにパリに比べてもブルターニュで買ったほうが少し安いようです)。フランスでも他のバターに比べれば高いですが、それでも買い求める人が後を絶たない理由は食べてみないと分かりません。また、サン・マロにはボルディエ直営のレストランもあり彼のバターを使った料理が楽しめます。機会があれば是非試してみてください。

ボルディエのバター工場で撮影された宣伝ビデオ