フランスの10分の1のムール貝を生産するサン・ブリユー湾のルーツ
クリスマスを間近に控えたサン・ブリユー(Saint-Brieuc)旧市街の喧騒を離れ、丘を下ってサン・ブリユー湾にあるブルターニュ地方で5番目に大きい港のル・レゲ港(Port du Legué)へ。約8kmに渡って伸びる波止場は散策コースが整備されていて、それに沿って多くの船が整然と並んでいます。
偶然通りかかったレストランの前に出ているメニューの中にある料理を見つけて、迷わず中に。「入荷次第」と書かれていたので、おしゃべり好きな店主に聞くと「今は牡蠣がシーズンで、ちょうど入れ替わってる時期なのよ」とのこと。
実は、サン=ブリユー湾は帆立貝の他にムール貝の有名な生産地で、夏になると多くの観光客がこれを目当てにル・レゲ港に並ぶレストランに押し寄せます。

海の恵みを育むサン・ブリユー湾のル・レゲ港
17世紀末にはカナダのニューファンドランドへ船団を送り出したル・レゲ港は、イギリスの島々やノルマンディー(Normandie)地方との沿岸交易を行うなどして栄えていました。他の多くのブルターニュの海岸沿いの街のように、住民の多くが漁師や海藻などを採取して生計を立てていました。サン・ブリユーの街はイギリス海峡につながっているその地理的利点と豊かな海の恵みで栄えてきたのです。
現在では、サン・ブリユー湾はブルターニュ地方の中ではモン・サン・ミッシェル湾などと並んでムール貝の養殖地として知られています。3月から12月にかけてフランスの10分の1の生産量にあたる4000トンを出荷しており、湾内には養殖に使われる杭はなんと93kmにも渡って広がっています。
ラ・ロシェルからサン・ブリユーへ伝えられたムール貝養殖
意外に思われるかもしれませんが、サン・ブリユー湾のムール貝養殖の歴史は比較的浅く、その始まりは1960年代に過ぎません。
ムール貝の養殖はもともとフランス西部のラ・ロシェル(La Rochelle)で始まったものです。伝説によると、13世紀にアイルランド人のパトリック・ワルトンがラ・ロシェル北部で遭難した時に鳥を捕まえるために海に網を張ったところ、杭に小さなムール貝が挟まっていました。空腹のパトリックは二匹目のドジョウを狙ってすぐさま杭を増やしてムール貝を獲ったのです。このことをきっかけにラ・ロシェルにムール貝養殖が広がっていきました。
しかし、悲劇は1956年に起きます。ラ・ロシェルの北部にあるエギュイオン湾のムール貝が深刻な病気に襲われ、生産高の90パーセントという壊滅的な打撃を受けます。そして、ムール貝生産者たちは新たな場所を求めてブルターニュ地方に旅立ったのです。サン・ブリユー湾はそんな彼らのお眼鏡に適い、彼らは定住して養殖のための最初の杭を打ち込んでから約60年になります。
有名なブショーのムール貝とは?
フランス、特にブルターニュ地方のムール貝の話をする際に、忘れてはならないのはブショーのムール貝です。ブショー(bouchot)とは養殖に使われる杭のことです。この杭を使った手法で育てられたブショーのムール貝(moules de bouchot)は小さめながらも身がしっかり詰まっていて、サン・ブリユー湾をはじめとしたブルターニュ地方やモン・サン・ミッシェル湾のものがとりわけ有名です。
ブショーのムール貝は例年5〜6月くらいからレストランに並びはじめますが、一般的に7月から8月頃が旬の季節です。実際に比べてみると多くのフランス人がムール貝といえばブショーというのも頷けます。機会があればぜひ試してみてください。