盗まれたポール・シニャック作の絵画「ラ・ロシェル港」の行方

約3年の歳月を経て、ナンシー美術館に帰還した名画

こんにちは。フランス政府公認ガイドの濵口謙司(@tourismjaponais)です。

2018年5月、フランス東部の街ナンシーにあるナンシー美術館(Musée des Beaux-Arts de Nancy)所蔵のポール・シニャックの作品「ラ・ロシェル港」が盗まれました。美術館で名画が突如として消えるというのはまるで映画の世界のような話で話題となりました。

それから約3年後の2021年2月12日。盗まれたシニャックの名画がようやくナンシー美術館に返還されたという報道がありました。評価額が150万ユーロ(約1億9千万円)するという作品を取り戻したという朗報に、ナンシーの関係者や美術愛好家の方々はほっと胸を撫で下ろしたのではないでしょうか。

ポール・シニャックの「ラ・ロシェル港」とは?

ポール・シニャックとはフランスの新印象派を代表する画家で、線ではなく点や点に近い短いタッチで描く点描画という手法で知られます。科学的根拠に基づいた色彩理論を用い、モネなどの印象派の画家たちが直感的に行っていた光の表現を突き詰めた一人です。

シニャックはフランス各地の景色を描いた作品を残していて、1915年に描かれた「ラ・ロシェル港」はその名の通り、大西洋を臨むフランス南西部きっての港湾都市ラ・ロシェルの港を描いたもの。

ちなみに、同様のテーマで描かれたものがパリのオルセー美術館にも所蔵されています。

「ラ・ロシェル港への入港(1921年)」オルセー美術館所蔵

姿を消した「ラ・ロシェル港」

シニャックの作品が盗難が発覚したのは2018年5月24日の午後のこと。高さ46.5cm、横55cmの大きさの絵は額は残されたまま、絵だけきれいに切り取られていたとか。その手口があまりにも巧妙だったためか、すぐさまその手のプロの仕業として捜査が進められました。

それから約1年後の2019年4月。「ラ・ロシェル港」が見つかったのはなんと・・・ウクライナのキエフ。

ウクライナ警察によると、宝石商を殺害した容疑で捕まった男性の自宅で絵は見つかったそう。シニャックの作品の他にもルノワールやウジェーヌ・ブーダンの作品も一緒にあり、文化財密売組織の犯行によるものだったようです。ちなみに、4人のウクライナ人で構成される犯行グループの一部は現在も依然として逃走を続けているとのこと。

ナンシー美術館(写真左)はユネスコ世界遺産に指定されているスタニスラス広場にある。

こうして取り戻されたシニャックの作品は当局により押収され、その後ウクライナからフランスへ。専門家により鑑定を受け、無事に本物だと認定され、フランス司法当局から所有者であるナンシー美術館のもとに戻されました。

修復作業の後に「ラ・ロシェル港」はナンシー美術館に再び展示されるとのこと。盗難された絵というと、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」が思い出されますが、シニャックのこの絵もナンシー美術館で注目される絵になることは間違いなさそうです。