フランス東部ナンシーで少しマニアックな町歩きを楽しむ

世界遺産の区画以外にもあるナンシーの見どころ

こんにちは。フランス政府公認ガイドの濵口謙司(@tourismjaponais)です。

フランス東部ロレーヌ地方にあるナンシー(Nancy)は中世から20世紀に至るまでの傑作とも呼べる多くの建築が残されている街です。建物の一つ一つを見ながら歩いていくと、街がたどってきた歴史が感じ取れます。

ナンシーといえば、ユネスコ世界遺産に指定されているスタニスラス広場(Place Stanislas)などの3つの広場やアール・ヌーヴォー建築の建物の数々が有名ですが、今回はその陰に隠れがちな旧市街にあえてスポットを当てます。

旧市街を歩くとあまりガイドブックで詳しく語られることのないナンシーの歴史が見えてきます。

目次

  1. ナンシー旧市街の街並みを想像してみる
  2. ロレーヌ公爵のかつての栄華を思わせる宮殿
  3. 歴代のロレーヌ公爵が眠るコルドリエ修道院
  4. ナンシーへのアクセスなど

1. ナンシー旧市街の中世の街並みを想像してみる

長い歴史を持つフランスの街を訪れるといわゆる旧市街と呼ばれる地区があります。こういった街の多くはこの旧市街を中心として発達していくのが一般的です。ナンシーは北から南に発達していき、ユネスコ世界遺産にも指定されているスタニスラス広場などのある区画よりも北に旧市街があります。

上の地図は1754年のナンシーを表したもの。地図の左が北側にあたり、左半分が旧市街に当たります。右側(街の南側)は16世紀に当時のロレーヌ公爵シャルル3世によって手がけられた新市街(Ville neuve)です。

中世のナンシーはフランスの他の多くの街と同様に城壁に囲まれた都市でした。現在その面影が残されているのがクラフ門(Porte de la craffe)です。

この門はナンシーに現存する一番古い文化財でもあり、14世紀から15世紀に建てられたもの。19世紀まで2つの塔はなんと牢獄として使われていたとか。

旧市街と新市街を地図で比べると、地図の右側の新市街は碁盤の目のように東西と南北を通るそれぞれの道が直角に交わっているのに対し、旧市街は道が場所によっては曲がりくねって入り組んでいるのが分かります。旧市街と新市街を続けて歩くとその違いを感じることができると思います。

2. ロレーヌ公爵のかつての栄華を思わせる宮殿

クラフ門の他に旧市街の中でもとりわけ存在感を放つのが、ロレーヌ公爵宮殿(Palais des Ducs de Lorraine)です。

フランスに属するロレーヌ地方ですが、かつてはロレーヌ公国の一部でした。現在のロレーヌ地方の他、ルクセンブルクやドイツの一部に渡り広がっていた公爵が治める国で、ナンシーは歴史的に首都として栄えてきました。

現在の宮殿は15世紀末から16世紀の初めにかけて建てられたもの。当時のロレーヌ公の権力を今に伝える建物で、とりわけ入口の上にある立派な彫刻が視線を引きつけます。

この彫刻を注意深く見ると、中世のゴシック様式からルネサンス期への変遷が感じられます。上部にある小さな尖塔(先細の円錐型の塔)や騎馬像のすぐ上の三つ葉のアーチははまさに前者を象徴するもので、フランスに数多くあるゴシック様式の教会や大聖堂にも見られます。

一方で、最上部に見られる貝の彫刻や半円アーチ、騎馬像はルネサンス芸術によく見られるテーマ。ルネサンスとはイタリアを中心にヨーロッパに波及した古代ギリシャやローマの文化を理想として回帰を目指した文化運動です。

イタリアからもたらせたルネサンスの影響はフランスではシャンボール城など多くの古城が残るロワール渓谷に多く見られます。かつてフランス王に請われてイタリアを離れたレオナルド・ダ・ヴィンチが晩年を過ごした場所でもあります。

フランス各地で広がっていたゴシック様式とは対照的に、ルネサンスの影響は局所的にとどまりました。代わりに、ゴシック様式が依然として強い影響を及ぼしていました。

では、なぜイタリアやロワール渓谷から離れたナンシーでルネサンス建築の影響が見られるのでしょうか?

実は、これは当時のロレーヌ公爵であったアントワーヌはフランス王宮で育ったため。このロレーヌ公爵宮殿もロワール渓谷にあるブロワ城に着想を得て作られたと言われています。

3. 歴代のロレーヌ公爵が眠るコルドリエ教会

現在ではロレーヌ公爵宮殿はロレーヌ博物館として使われていて、ロレーヌ地方の歴史を知ることができる場所となっています。同じく博物館の一部となっているのが、宮殿の隣にあるコルドリエ教会(Église des Cordeliers)。こちらでもロレーヌ地方のあらゆるところから集められた文化財を鑑賞することができます。

コルドリエ教会は15世紀にロレーヌ公爵宮殿を建てたアントワーヌの先代のロレーヌ公爵ルネ2世(René II)によって創建されました。ちなみに、コルドリエの名前は修道士たちが腰に着けていた組み紐に由来しています。

幅9メートル、長さ73メートルのこの建物の内部は外見同様に装飾が少なく質素な作り。少し奥に進んでいくと奥まったスペースが左右にあり、そこには横たわった彫刻があるのが分かります。これは歴代のロレーヌ公爵などを祀ったもの。

建物の中で必見なのは教会の奥にある礼拝堂。当時のロレーヌ公爵シャルル3世(Charles III)によって自らの祖先を祀るために築かれました。1609年から1612年にかけて作られたこの部分はイタリアのバロック様式に影響を受けていて、見上げると美しい丸天井が見られます。

丸天井は天使や星などの彫刻が施された386の格間(天井を覆う凹面のパネルのこと)によって覆われています。思わず声を上げてしまうほどの圧巻の美しさです。

今回は旧市街をご案内しましたが、ナンシーは中世からアール・ヌーヴォーの20世紀まで、様々な時代の建築の傑作が鑑賞できる街です。ぜひゆっくりと時間をかけて街を歩いてみてください。

4. ナンシーへのアクセスなど

パリ東駅(Paris Est)から高速鉄道TGVで約1時間半から2時間弱。ナンシー駅(Gare de Nancy)下車。

駅からロレーヌ公爵宮殿までは徒歩で20分弱。観光案内所があるスタニスラス広場までは徒歩で約12分です。

ナンシーは徒歩でも十分観光ができますが、路面電車も便利です。1時間有効の切符は1.5ユーロ(2020年3月現在)、1日乗車券は3.9ユーロ(同)となっています。