旧石器時代の巨石遺跡群の秘密
こんにちは。フランス政府公認ガイドの濵口謙司(@tourismjaponais)です。
フランス北西部ブルターニュ地方は数多くの巨石遺構が残されていることでも知られます。その総数はなんと約3000に達します。
ブルターニュ地方に点在する巨石群の中でも、とりわけ有名なのがカルナック列石(Les alignements de Carnac)です。カルナック列石はメネク(le Ménec)、ケルマリオ(Kermario)、ケルレスカン(Kerlescan)という3つの列石群によって構成されています。
度重なる発掘調査や考古学の進歩を持ってしても、カルナックの列石には未だ解明されない多くの謎が残されています。そういった神秘さが毎年多くの訪問者を惹きつける理由なのかもしれません。
目次
1. 誰が巨石建築を建てたのか?

カルナックの列石は紀元前5000年から3000年にかけて、周辺で牧畜や農耕をしながら生活していた人たちによって作られたというのが現在の定説です。
彼らは階級社会の中で暮らしていたことが、このような巨石を多く立てることができた理由と考えられています。一人ではもちろんこのような大きな石を持ち上げることはできないからです。
共同体の中には首長がいて、土木に長けた者、つまり今でいう建築家がいて、儀式を行う司祭がいて、そして彼らに従う平民が手と足となり石を運んだと考えられています。カルナックの列石の中には重いもので300トン近くのものもあり、それを動かすためには何百人もの人を動員する必要があります。
そのことから、集落には何千もの人たちが住んでいて、彼らが組織的に動いて巨石建築を生み出したと推測ができるわけです。
2. 巨石遺構の種類を知ろう!
カルナックでは主に2つの種類の巨石遺構を見ることができます。違いを知っておくと、鑑賞の幅が広がります。
まっすぐ建てられた巨石メンヒル
メンヒル(Menhir)とはブルターニュ地方の言語であるブルトン語で「長い石」を意味する言葉。フランス語で発音すると「メニール」に近いでしょうか。

メンヒルは石一つだけ単独で立てられたり、あるいは環状(円形)や列で並べられたりします。
余談ですが、メンヒルは世界遺産でもあるイギリスのストーンヘンジにも使われています。ストーンヘンジの場合はトリリトンと呼ばれる3つの石を使った5組の組み石を中心に数多くのメンヒルがそれを取り囲む環状列石となっています。
埋葬のために作られたドルメン
ブルトン語で「石のテーブル」を意味するドルメンは墓所として建てられたもの。大きな板石、あるいは小さな石を使った屋根によって一つあるいは複数の墓室が作られ、それぞれの部屋は廊下によってつながれています。

ドルメンにはいくつかの作り方や種類があります。
その一つとしては、表面部分だけをまず作り、土などで外側を覆って丘のような形にしたもの。墳丘墓とも言われ、日本でいうと古墳に近いイメージでしょうか。とはいえ、ドルメンは日本の古墳のように権力者のためのものではなく、共同墓地としての目的を帯びていたようです。
その他の方法としては、最初に穴を掘る、あるいは人口の洞窟を作った後に石を組み立てたものもあります。
3. カルナックの列石を取り巻く逸話と伝承
カルナックの列石は何のために作られたのでしょうか?
実のところ、目的は今も謎のままです。もちろん仮説はいくつかあり、石の形や配列によって墓や信仰の場などと使われていたというのが現在の一般的な考え方となっています。
考古学によって発掘調査が始まる19世紀の終わりまでは、カルナックにある巨石群は多くの人の想像力を駆り立てました。

ある伝説によれば、これらの石はガリア人(現在のフランスやベルギーなどに住んでいたケルト人)の墓地で、誰かが亡くなるとその度に石を立てていたとか。その人がお金持ちであれば、大きい石を。そして、貧しい人であれば小さな石を・・・という風に。20世紀に入ってもこの話は語り継がれていたようです。
また、中には3世紀にローマ教皇だったコルネリウスにまつわる伝説もあります。異民族の兵士たちに追われたコルネリウス。気がつくと後ろは海で、逃げるための船も見つからず、まさに絶体絶命。そこで、彼は後ろを振り返り、何と兵士達を全員石に変えてしまったとか・・・。
現在の私たちでさえ、カルナックの列石を目の前にすると、どこか人間の力を超えた何かを目にしたような気にさえなります。写真ではなかなか伝わりませんが、カルナックの列石には現地で見て初めて感じ取れる何かがあるような気がします。
考古学もなく科学という視点で物事を見ることがなかった昔の人たちの想像力はそうやって際限なく広がっていったのかもしれませんね。
4. カルナック列石のアクセスと楽しむコツ
カルナックへのアクセスはオレー(Auray)まで電車で行き、そこからはキブロン(Quiberon)方面へのBreizhGoのバスで行くのが一般的です。
下記のリンクはブルターニュ地方モルビアン県で運行されているバスの時刻表リストで、「Ligne 1 : Auray – Carnac – Quiberon」がカルナック行きのバスの時刻表となります。
最寄りのバス停はCarnac Villeで、そこから徒歩10分強でカルナック列石の観光の起点となる巨石センター(Maison des mégalithes)へ。ここでは、観光情報やショップ、カルナック列石についての展示などもあります。
巨石センターの前にはメネク(le Ménec)の列石があり、950メートルに渡って1050の石が配置されています。ガイドツアーもあり、フランス語の他に時期によっては英語などのツアーもあります。
カルナックにはその他にもケルマリオ(Kermario)、ケルレスカン(Kerlescan)という2つの列石群がありますが、歩いて回るとかなりの距離になります。
そこで便利なのがル・プチ・トラン(Le Petit Train)です。4月から9月末、諸聖人の日(11月1日)のバカンス時期には、巨石センター前からル・プチ・トランと呼ばれる電車の形をした小型観光バスが出ています。
車内にはオーディオガイドもあり、日本語にも対応しています。下車ポイントが2つあり、途中で降りて観光することも可能です。