巨大な像が歩くナントから始まった演劇集団「ラ・マシーン」が描く空想世界
こんにちは。フランス政府公認ガイドの濵口謙司(@tourismjaponais)です。
フランス北西部の街ナント(Nantes)というと皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか?
近年では現代アートを街中で楽しめるイベント「ル・ヴワャージュ・ア・ナント(Le Voyage à Nantes)」が有名ですが、かつては造船の街でもありました。

街を流れるロワール川に浮かぶイル・ド・ナント(Île de Nantes)には巨大な黄色とグレーのクレーンがそびえ立ちます。これは造船で栄えた街の歴史を語るもの。
1987年にその役割を終えたかつての造船場の跡地は、現在では新たな息吹がもたらされました。それが、レ・マシン・ド・リル(Les machînes de l’Île)と呼ばれるプロジェクトです。
目次
1. 芸術プロジェクト「レ・マシン・ド・リル」とは?
フランソワ・ドラロジエール(François Delaroziere)とピエール・オルフィス(Pierre Orefice)によって始められた演劇集団「ラ・マシーン」によるレ・マシン・ド・リルのプロジェクト。象徴的なのは何と言っても機械仕掛けの巨大な象でしょう。
高さ12メートル、幅8メートル、長さ21メートルの象は目の前に立つと思わず圧倒されるほど。上に乗ることもでき、4階建ての家くらいの高さからの眺めを楽しむこともできます。
この象に代表されるプロジェクトを構想した2人に大きな影響を与えているのは、時代を超えた2人の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチとジュール・ヴェルヌ。
前者はもちろんあの「モナ・リザ(フランス語ではLa Joconde)」を描いたことでも知られますが、発明の天才でもありました。そして、後者はナントで生まれの「SFの父」と呼ばれる小説家。「海底二万里」などの作品の多くは彼の死後に映画化されています。
そういった視点で改めて彼らの作品を見ると、世界観に通じるものがあるのが分かります。そして、街の造船の歴史やジュール・ヴェルヌ、芸術などがこの場所に集い「レ・マシン・ド・リル」が実現したのは決して偶然ではないのかもしれません。

2. 20年越しの「アオサギの木」プロジェクト
「レ・マシン・ド・リル」のプロジェクトが興味深いところは、まだまだ続きがあり、現在進行形であること。昔の造船現場だった建物内には工房があり、試作中のものを見学できます。
機械で動く鳥や虫など、コンセプトから実現に至るまでの過程を係員の案内とともに見ることができます。実は、この工房は次なる大きなプロジェクトのための実験室でもあるのです。
2016年に当時のナント市長などの立ち会いのもとに発表されたこの「アオサギの木(l’Arbre aux Hérons)」プロジェクトのスケールは壮大の一言。ロワール川を臨むように建てられるこのアオサギの木の直径は50メートル、高さは35メートル。この木の上を機械仕掛けのアオサギなどの生物が動きます。

実際にそんなことができるのだろうか・・・と思ってしまいますが、工房で実際に動いている虫や鳥などを見ると、本当なんだなと狐につままれたような感じになります。2002年にはすでに構想があったこの計画は、2018年には工事が始まり、2022年には完成予定だそうです。

この話を初めて知った時、私の脳裏を真っ先によぎったのは映画「天空の城ラピュタ」でした。エンディングでラピュタが空高く昇っていくシーンです。そんな空想世界のような光景が近い将来に見られるのは楽しみですね。
3. ミノタウロス、そしてドラゴン・・・ナントからフランス各地に上陸!
演劇集団「ラ・マシーン」の生み出す世界観はナントにはとどまらず、実はフランス各地で展開しています。こちらではナントのレ・マシン・ド・リルを訪れた後は、トゥールーズ(Toulouse)とカレー(Calais)の例をご紹介します。
トゥルーズの「アール・ド・ラ・マシーン」を闊歩するミノタウロス
フランス南部の街トゥールーズに現れたのは、ギリシャ神話に登場する牛の頭と人の体を持った怪物ミノタウロス。2018年11月1日から4日にかけて巨大蜘蛛と一緒にトゥールーズの人々や観光客の視線を釘付けにしました。
主に鋼と木で作られているミノタウロスの巨体は高さ13メートル、重さ47トンに達し、その背中には50人を乗せることができるそうです。
現在では、このミノタウロスは巨大蜘蛛とともに「アール・ド・ラ・マシーン」というラ・マシーンが手がける新たな施設で見ることができます。もちろんミノタウロスに乗ることできます。乗降を合わせて45分で、チケットは下記のホームページでも予約購入が可能です。
フランス北部の港町カレーにはドラゴンが上陸・・・
ミノタウロスがトゥールーズに現れてからちょうど1年後の2019年11月1日。イギリスとフランスをつなぐユーロトンネルのフランス側の入り口のカレーという街に巨大なドラゴンが現れました。
高さ10メートル、全長25メートルのこのドラゴンは17人のスタッフによって操られているのですが、その動きはまるで生きているかのよう。ナントの巨大な象やトゥールーズのミノタウロスと同じようにやはり上に乗ってみたいですよね。
カレーのドラゴンは街の都市開発計画に沿って生まれたプロジェクトで、2019年12月17日より一般に公開されるとのこと。将来的にはイグアナやオオトカゲも加わるそうで、カレーの新たな名所として人気を集めそうですね。
このように、ナントからトゥールーズやカレーに広がっていく演劇集団「ラ・マシーン」が作り出す空想世界。これからどのように展開していくのか・・・今後の動向にも注目ですね。