ブルターニュ地方カンカルの牡蠣がフランス人に愛される理由

ルイ14世をはじめ歴代のフランス王も愛したカンカルの牡蠣

11月も終わりになるとフランス各地でマルシェ・ド・ノエル(marché de Noël、フランス語でクリスマスマーケット)が開かれるようになり、テレビではクリスマスプレゼントを意識したCMが流れ始めます。バカンスシーズンでもあるクリスマスから年末年始にかけては、フランスでは家族や友人同士で食卓を囲む機会が多く、少し贅沢をしようと海の幸の需要が高まる時期でもあります。

そんな年の瀬に魚屋さんに行くと、海老、貝、蟹などを買い求める人をいつもより多く見かけます。しかし、この時期の魚介類の主役は何と言っても牡蠣です。数ある産地の中でもとりわけブルターニュ地方のカンカル(Cancale)産の牡蠣は高い名声を誇ります。モン・サン・ミッシェル湾の西端に位置するカンカルは、ヨーロッパ最大規模の潮の満ち引きの生み出す新鮮な自然の恵みを味わえる美食の街でもあります。

ユネスコ世界遺産のモン・サン・ミッシェル湾の海の恵みを味わおう!

時代の寵児に愛されたカンカルの牡蠣

カンカルの牡蠣を仕分ける女性像
カンカル旧市街にある牡蠣を仕分ける女性の像

「ローマは1日にしてならず」とよく言いますが、カンカルの牡蠣が築いている今の地位は長い歴史に裏付けされています。有史以前から既に食されていたとフランスの沿岸地域原産のヨーロッパヒラガキ(huître plate)という種類の牡蠣は、現在のフランスだけでなくヨーロッパ中を我がものとしていたローマ帝国の目にも止まります。この時、なんと彼らはこの時牡蠣の養殖さえも試みていたようです。

中世から近世にかけても、フランスの海岸沿いでは牡蠣は引き続き食べられていました。その一方で、都市部の貴族には高級品として珍重されていました。中でも、カンカルの牡蠣はアンリ4世、ルイ14世、ナポレオン1世など時の権力者に愛されます。ルイ14世にいたっては、わざわざカンカルからパリ近郊にあるヴェルサイユ宮殿まで取り寄せさせて毎朝食べるほどで、食事前に6ダースの牡蠣を平気で平らげていたようです。

絶滅の危機に瀕したカンカルの牡蠣

カンカルの牡蠣養殖場
カンカルの牡蠣養殖場

カンカル原産の牡蠣はその形から「馬のひづめ(pied-de-cheval)」という名でも親しまれていますが、実は今カンカルで食べられる牡蠣の多くは厳密に言うとルイ14世が食べていたものとは違う種類のものなのです。

20世紀に入ると伝染病により大きな打撃を受け、ポルトガルから取り寄せた稚貝で養殖し始めます。しかし、1970年代に入ってカンカルの牡蠣養殖業者は再び伝染病によって深刻な被害を受ける事となります。ポルトガル産の牡蠣も伝染病に対して抵抗力が低かったため、再びゼロからのスタートを余儀なくされます。そんな途方に暮れていた時に手を差し伸べたのがなんと日本の同業者でした。

遠く離れたフランス北西部の街の惨状を聞きつけた広島や三陸地方の牡蠣養殖業者がカンカルに稚貝を送ります。ポルトガルのものに比べて抵抗力が強かったため、日本産のマガキ(huître creuse)がカンカルに定着するようになりました。こうして、現在ではカンカルの牡蠣の多くが日本原産のものとなっています。

この牡蠣を通じて始まったカンカルと日本の交流には続きがあります。2011年の東日本大震災で養殖の設備を失ってしまった三陸の牡蠣養殖業者に、40年前の恩を忘れていなかったカンカルから「お返し」が届けられました。なんと、カンカルの漁業関係者が声を掛け合い、牡蠣の養殖に必要なロープやブイなどを三陸に届けたのです。こうした縁もあって、今でも養殖の技術などを通じて交流が行われています。

養殖場から直送の市場とレストランでカンカルの牡蠣を楽しむ

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カンカルの牡蠣市場

カンカルには魚介類を楽しめる地元のレストランから、ブルターニュ産の食材をふんだんに使ったLa table Breizh Caféのようなミシュラン1つ星の日本料理店まで、牡蠣を味わえる多くのレストランがあります。

干潮の時に姿を表す牡蠣養殖場の前には牡蠣市場(Marhé aux huîtres)があります。一年中開いているこの市場では、牡蠣を新鮮なまま現地で食べることもできます。日本では牡蠣フライや焼いたり、鍋に入れたりと加熱して食べることが多いですが、フランスの場合はレモンなどをかけて生のまま食べるのが主流です。

エメラルド海岸と呼ばれる美しい海を臨むカンカルは牡蠣だけでなく、景色の美しさと言う点でも見逃せません。晴れている日には海の向こうにモン・サン・ミッシェルを見ることもできます。新鮮で美味しい牡蠣を食べたい方は、ぜひカンカルに足を伸ばしてみてはいかがでしょうか?

カンカルへの行き方

パリからはパリ・モンパルナス駅から高速鉄道TGVでサン・マロ(Saint-Malo)へ。サン・マロ駅前のバス停からはカンカル行きのバスに乗り、CANCALE – EGLISE停留所下車。所要時間は約25分、片道料金1ユーロ30セント。

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