開国前夜、フランスのジャポニスムの黎明期

1858年の日仏交流が始まる前に既に北斎の作品はフランスに渡っていた?

モネが所有していた北斎の浮世絵
モネが所有していた北斎の浮世絵

フランス北西部のノルマンディー地方のジヴェルニー(Giverny)のモネの家に行くと、彼の所有する膨大な浮世絵のコレクションに驚かされます。クロード・モネ(Claude Monet)は生前自らが買った浮世絵を自慢げに友人たちに見せていたそうです。

ところで、いつ頃から浮世絵に代表される日本の浮世絵がフランスに来るようになったのでしょうか?

一番のきっかけは1858年に日本とフランスの間で結ばれた日仏修好通商条約です。同年にアメリカやイギリスなどとも結んだ同内容の不平等条約でしたが、これにより日本とフランスの間に正式な外交関係が結ばれました。そして、明治維新から文明開化へと近代化を急速に進める日本にとって、フランスは政治などの面でモデルとなっていきました。

一方で、文化の面でも1858年を皮切りに多くの交流が行われ、日本からは浮世絵などの絵画や工芸品だけでなく、多くの日本人がフランスに渡るようになりました。これらがジャポニスム(Japonisme)と呼ばれるうねりを生み出す一因となり、モネなどの印象派の画家たちにも大きな影響を与えることになります。しかし、このジャポニズムは突然始まったわけでなく、実は1858年以前からその予兆があったのです。

開国以前、日本の芸術品はどのようにフランスやヨーロッパに渡ったのか?

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時代は江戸時代末期に遡ります。日本はまだ鎖国を続けていて、外国との交易は長崎の出島での中国とオランダのみとの間に限られていました。この2国の手を渡って、日本の浮世絵や工芸品がヨーロッパへと伝わっていきました。

17世紀末に長崎の出島の近くに定着していた中国人は、中国市場向けに日本製品の輸出を始めていました。そして、物資の補給をするために中国に立ち寄ったヨーロッパの商船も、ここで日本の工芸品などを買って本国に持ち帰っていきました。こうしてフランスに辿り着いたものが、1840年にはパリの雑貨店で展示されたり、海洋博物館の収蔵品に加えられたりしていきました。

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また、オランダ経由でもフランスに日本の絵画がもたらされました。出島にあるオランダ在外商館長によって1826年に購入された絵画の数々が、1855年にフランス帝国図書館(現在のフランス国立図書館の前身)の収蔵品に加えられました。

これらの浮世絵は前述のオランダ商館長が江戸を訪れた際に、自ら北斎のアトリエに依頼して作られたものだと考えられています(上の絵画もそのうちの1点で日本橋を描いたものです。)。従来の彼の作品に見られなかった消失点の使用など伝統的な西洋絵画の技法も見られます。

19世紀の始めから北斎が70歳になる1829年までの間、北斎は世界的に「ホクサイ・スケッチ」として知られる「北斎漫画」の制作を始めていました。有名な「富嶽三十六景」の浮世絵が日本を席巻をする少し前で、シーボルトなどのオランダ商館員が持ち帰ったのは主に北斎の絵本や肉筆画でした。

北斎漫画

一般的に、浮世絵に関しては、実は最初は漆器や陶磁器などを輸出する際に包装紙として使われていました。つまり、最初から芸術品としてヨーロッパで評価されていたわけではなかったのです。しかし、その価値を見出した画商などが次第に美術品として輸入をするようになったのです。

1858年に日仏修好通商条約締結が結ばれてから、文化面での両国の交流は盛んになっていき、浮世絵などの絵画はもちろんのこと、彫刻や工芸品など様々な分野の日本の芸術品がフランスに入ってくるようになりました。こうして、「ジャポニズム」という波がフランスやヨーロッパにやって来るのです。

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歌川広重(左)を模写したゴッホの作品(右)

モネやゴッホなどはそのように日本から輸入された浮世絵の収集家でもありました。そして、彼らが浮世絵から得た影響は計り知れないものでした。例えば、モネはジヴェルニーの自らの庭に太鼓橋を模倣した「日本の橋(pont japonais)」を作らせました。ゴッホは浮世絵の模写をするなどして、見たことのない日本の姿を自らの作品に投影させようとしました。

一方で、西洋から入って来た絵画を見て心を動かされ、開国後、フランスへ渡った日本人画家が多くいたことも忘れてはいけないでしょう。そして、いち早くヨーロッパの絵画の手法を自らの作品に取り入れたのが北斎だったというのがとても興味深いところです。日仏外交が正式に始まるその前から、絵などを通して芸術家たちの間ですでに交流が始まっていたのです。

ジャポニスム2018

今年2018年はちょうど日仏修好通商条約締結から160年を迎える年でもあり、「ジャポニスム2018」と題してフランス各地で様々なイベントが行われます。日本でも2017年秋から2018年初めにかけて東京で「北斎とジャポニズム」や「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」が行われましたが、フランスでもジヴェルニーの印象派美術館(Musée des impressionnismes)でジャポニスムをテーマにした展覧会が開かれるなど、今年しかない企画展が予定されています。この機会にぜひモネやゴッホの視点でジャポニズムを体験してみてはいかがでしょうか?

印象派美術館公式ホームページ(フランス語)