ユネスコ世界遺産のモン・サン・ミッシェル湾の海の恵みを味わおう!

ムール貝や牡蠣などモン・サン・ミッシェル湾の豊かな生態系が生み出す海の幸

フランスで最も訪れられる場所の一つであるモン・サン・ミッシェル。世界各国から多くの観光客が訪れるこの唯一無二の人類遺産が、1979年よりユネスコの世界遺産に登録されています。ところで、世界遺産としての登録の正式名称はご存知でしょうか?

実は世界遺産としては「モン・サン・ミッシェルとその湾(Mont-Saint-Michel et sa baie)」として登録されています。つまり、修道院のある島だけでなく、島のあるモン・サン・ミッシェル湾とそれを取り囲む陸地までも世界遺産なのです。ここで育まれる命は他に類を見ない生態系を形成しており、巡り巡って私たちの食卓にも運ばれているのです。

潮の満ち引きが生み出す豊かな生態系

IMG_0198
モン・サン・ミッシェル修道院から見たカンカル方面の湾

モン・サン・ミッシェル湾はモン・サン・ミッシェルを中心に、西はブルターニュ地方のカンカル(Cancale)から東はノルマンディー地方のグランヴィル(Granville)まで続いていて、その広さは400㎢にわたります。その特徴は何と言ってもヨーロッパで一番と言われる潮の干満の差で、大潮になると干潮時と満潮時の差が最大で約15メートルに達します。その際、満潮時はモン・サン・ミッシェルを海で取り囲むばかりでなく、干潮時には河岸から約18キロの地点まで水が引いていきます。これにより、モン・サン・ミッシェル湾のなんと約6割が砂浜に変わるのです。

干潮により海の底からその姿を見せた地面は、日中は満潮に変わるまでの約6時間日差しを直接浴びます。そして、温められた地面は水面に隠れた後は水にその熱を伝えます。このことによって水温が上がり、珪藻などのプランクトンの繁殖を促進します。生態系の土台部分を支えるプランクトンが増えることにより、捕食する動物も恩恵を受けます。このように、潮の満ち引きのリズムが、モン・サン・ミッシェル湾のあらゆる命の鼓動を刻んでいるのです。

モン・サン・ミッシェル湾から食卓へ届く海産物

モン・サン・ミッシェル湾のムール貝を使ったムール・フリット
モン・サン・ミッシェル湾のムール貝を使ったムール・フリット

モン・サン・ミッシェル湾ではフランス人にとても人気がある牡蠣とムール貝の2つの海産物が養殖されています。7月から8月の夏にかけて旬を迎えるムール貝に対して、牡蠣はクリスマスや正月など家族が食卓を囲む冬に一番美味しい時期を迎えます。

ブルターニュ地方の美味しいムール貝が食べられるレストランの見つけ方

モン・サン・ミッシェル湾のムール貝は、ブルターニュ地方のサン・ブリユー湾Baie de Saint-Brieuc)などと同じくブショー(bouchot)と呼ばれる杭を使った養殖方法が用いられています。小柄ながらも黄色い味がしっかりと詰まった身が特徴で、モン・サン・ミッシェル湾では毎年約10000トンのムール貝が収穫されています。

カンカルの牡蠣養殖場
カンカルの牡蠣養殖場

水中の捕食生物から守るという理由で水の上で育てられるため、ムール貝がたくさん付いたブショーと呼ばれる杭は水面から顔を出しています。それとは対照的に、モン・サン・ミッシェル湾の牡蠣は水面から16メートルの深さで養殖されています。湾内ではヨーロッパヒラガキ(フランス語でhuître plate)という種類の牡蠣が主流でその収穫量は年間5000トンにも及びます。

モン・サン・ミッシェル湾で牡蠣の産地といえばカンカルが大変有名です。フランス中でもその名は知られており、牡蠣を味わうために街を訪れる人が後を絶たないほどです。モン・サン・ミッシェル修道院から西側を見るとカンカル(Cancale)の岩礁が見えます。この岩礁の前にあるのが上の写真の牡蠣の養殖場(parcs à huîtres)です。普段は海の下ですが、引き潮の時だけ姿を表すこの養殖場ではマガキが育てられています。

カンカルの牡蠣市
カンカルの牡蠣市(marché aux huîtres)

湾全体で約1500トン収穫されるマガキは、フランス語でhuître creuse、別名はhuître japonaise(日本語で日本牡蠣)と呼ばれます。ところで、なぜ日本牡蠣と呼ばれるのでしょうか?

この名前の由来は1970年代に遡ります。当時フランスの牡蠣養殖場は疫病により壊滅的な被害を受けていました。そこで東北の三陸地方や広島の牡蠣生産業者が稚貝をフランスに送りました。その送り先の一つがブルターニュ地方で、現在でもカンカルで生産される9割近くの牡蠣が日本にルーツを持つものだそうです。

カンカルには牡蠣を直接買うことができる牡蠣市の他にも、新鮮な海の幸を味わうことができる多くのレストランが海岸沿いに並んでいます。そして、偶然にも、特産品の牡蠣はもちろん、ブルターニュの食材をふんだんに使った料理を提供するLa table de Breizh Caféというミシュラン一つ星の日本料理店があります。日本にルーツを持つモン・サン・ミッシェル湾の海の恵みを和食で楽しむというのもまた格別の味わいがありますね。

ちなみに、モン・サン・ミッシェル湾のムール貝は日本にも輸出されています。モン・サン・ミッシェル湾の海の幸は遠いようで意外に日本に身近なものなのかもしれませんね。